藤本美和子主宰の俳句
一月

 鴛鴦の沓     

綿虫の綿の真白き快楽かな
風鐸の音に湧きつぐ雪蛍
勤行が始まる頃ぞ茶が咲いて
丈そろひ畝そろひくる葱畑
一文字の丈や男が屈みゐて
中天に半月をおく葱畑
根深引くをとこを囃す鴉かな
日のあたる方ばかり向く浮寝鳥
天日の上にのりたる鴛鴦の沓
落日の富士にかかれる落葉掻く







美和子句 自解
 
一月


寒声を使ふ始めは低うして

 
平成九年(一九九七)一月、東京例会に出句した作。この頃の東京例会は目黒にあった守屋教育会館で行われていた。この句は句会場での嘱目。詩吟のサークルの方々であろうか。同じ会場内の一室から吟詠の声が突如聞こえ始めたのである。朗々とした発声にふっと「寒声」という季語が閃いた。傍題に「寒声つかふ」という季語を見つけたときの喜びは今も忘れられない。感動が季語に直結する快感を知った句でもある。当時の小誌五月号では「泉集」の巻頭を頂戴した。仁喜評は「寒中の舞台」や「義太夫を語る」等々の場面を想定したもので、「始めは低うして」のフレーズは「押えが利いている」とも。俳句はまさに読み手によって完成する。『跣足』所収。
 

藤本美和子プロフィール
1950年、和歌山県生まれ。
綾部仁喜に師事。2014年「泉」を継承し主宰。
公益社団法人俳人協会理事、日本文藝家協会会員。句集に『跣足』(第23回俳人協会新人賞)、『天空』、『藤本美和子句集』、『冬泉』(第9回星野立子賞)、著作に『綾部仁喜の百句』、共著に『俳句ハンドブック』等。