藤本美和子主宰の俳句
九月  百日白       

百日紅百日白に後れけり
幣(みてぐら)の色やしろばなさるすべり
蒲の穂の尖(さき)あたらしき雨気山気
朝蟬やコップに汲んで岳の水
川風に翅を立てたる黒揚羽
山鳩のふたこゑみこゑ夕端居
蛍籠父のやうなる人とゐて
真夜中に鳴るは江戸風鈴の音
秋近き風映りたる忘れ水
卓袱台の脚を畳める盆休み




美和子句 自解
 

九月
  

手折りたる草に音ある九月かな 

 誕生月ということもあるのだろう。九月は好きな月である。余談だが私の誕生日は石田波郷の師、五十崎古郷の忌日でもある。つまり<古郷忌はわが誕生日>なのだ。古郷が亡くなったのは昭和十年九月五日。波郷は忌日が巡ってくるたびに古郷を偲ぶ句を作っている。波郷が亡くなったのは昭和四十四年十一月二十一日。私の生年は昭和二十五年なので、私が十九歳になるまで古郷忌の句を作っていたことになる。
 偶然とはいえ成人を迎える日まで古郷忌を介し波郷先生とも少なからぬご縁があった、と考えると、恐れ多くも有難い。
 掲出句は二〇〇三年作。場面はどこであったか。何の草であったか。すっかり忘れたが、「音」だけは鮮明に覚えている。このかそけき「音」に秋が来たことを実感した。おそらく俳句に言い留めていなければ、忘れてしまう音であろうし、ささやかなできごとである。あらためて俳句は十七音ながら、おろそかならぬ形式だと思う。『天空』所収。








藤本美和子プロフィール
1950年、和歌山県生まれ。
綾部仁喜に師事。2014年「泉」を継承し主宰。
公益社団法人俳人協会理事、日本文藝家協会会員。句集に『跣足』(第23回俳人協会新人賞)、『天空』、『藤本美和子句集』、『冬泉』(第9回星野立子賞)、著作に『綾部仁喜の百句』、共著に『俳句ハンドブック』等。