藤本美和子主宰の俳句
五月  一といふ数    

踏青や良弁杉の直下まで
木像に阿と吽の口よなぐもり
種袋南都の空の映りをり
あめつちのことばを聴かむかたこゆり
夜上がりの空片栗の花の反り
春の鴨泥をしたたか飛ばしけり
日めくりの一といふ数冴返る
花冷の筵に著き起伏かな
鍬は掛け目籠は並べ彼岸過ぎ
遅き日の一宿たのむ南都かな




美和子句 自解


樟の木を夜風の渡る旧端午  美和子  

 『天空』所収。二〇〇七年作。泉の校正は初校、再校、と二度の校正を行う。当時、初校は各自(といっても石井那由太さんと私の二人)自宅で済ませ、再校は巣鴨にある竹中印刷で井上弘美さんも加わり三人で行っていた。手弁当、おやつ持参、ということもあって、お茶の時間ともなるとなんとも賑やか。遠慮なくなんでも言い合える場でもあった。そのうち校正だけで終わるのはもったいない、もう少し俳句談義をしようということになって勉強会を始めた。内容は席題句会と仁喜句鑑賞、批評がメイン。毎月泉誌上に掲載される仁喜作品十句を俎上にあれこれ意見を述べ合う。昼前から始まる校正が終るのが午後四時頃。その後会場を喫茶店などに移してニ、三時間。時にはきちせあやさんが会場を提供して下さることもあって四人での勉強会となった。掲出句はその会が果てた後、戸外に出たとき即座に成った。その時の席題が「旧端午」であったのかどうか。会場の名も失念した。だが、その敷地内にあった樟の大樹を吹き渡る風の音、心地よい風の感触は今も鮮明に覚えている。おそらく作句モードになっていなければ生まれなかった句である。但し「旧端午」は歳時記に登載されていない。





藤本美和子プロフィール
1950年、和歌山県生まれ。
綾部仁喜に師事。2014年「泉」を継承し主宰。
公益社団法人俳人協会理事、日本文藝家協会会員。句集に『跣足』(第23回俳人協会新人賞)、『天空』、『藤本美和子句集』、『冬泉』(第9回星野立子賞)、著作に『綾部仁喜の百句』、共著に『俳句ハンドブック』等。