井上弘美句集『夜須礼』


角川文化振興財団・2021年4月26日・定価2,700(税別)

自選十五句

野遊びの靴脱ぐかへらざるごとく 
荒縄をくぐる荒縄鉾組めり 
流氷原を行くたましひの青むまで 
蝮酒ぐらりと闇が傾ぎけり 
犬岩の耳滅びゆく冬銀河 
すこやかに大地濡れゆく杏の実 
ひるがへるとき金色の鰭涼し 
金星の神在月の高さかな 
蕪村忌の舟屋は雪をいただけり 
狐火を見にゆく足袋をあたらしく 
湖一壺冬満月のあかるさに 
幾重にも折山のあり懸想文 
空遠くなる熊啄木鳥のドラミング 
水瓶に花鳥尽くせる霜夜かな 
楮踏むとは産土の水を踏む