長沼利恵子句集『自画像』

自選十五句

音のあるところ光りて冬泉
落葉松の直幹に春兆しけり
波消のなかの波音夏の月
蜂の子を食べて賢くなりにけり
丸ひとつ大きく描いて春を待つ
壊死の足上げて下ろして夜の長き
仰臥にも時流れけり旱星
まんばうを食ひ菜の花を食ひにけり
やかなけり今も信じて薺打つ
しやぼん玉消えたる空に飛ばしけり
薫風やキトラ古墳の天文図
息吸つて朧が胸に溜まりけり
自画像の少し若やぐ春隣
川越えて紅梅浄土歩きけり
夫に挿す白菊のまだ固蕾

(2023年11月4日ふらんす堂刊、定価2,970円)