藤本美和子抽出

九月

羽蟻の夜柱時計は九時を打つ      菅家瑞正
乗り継ぎて鍬形虫を買ひに行く     秋山てつ子
羽蟻飛ぶ論語の文字の小さきこと    陽美保子
                   (九月集)
上流に向かひて立てる青嵐       小橋信子
濃き闇は大日岳や夏蒲団        伊藤麻美
空蝉や母の遺影の前に置き       木本隆行
引き潮に島現るる夏休み       取違憲明
                   (石泉集)
枕辺に折鶴ひとつ夜の秋        星井千恵子
灯涼し一位の箸の手にかろき      小林真木
タンバリンひとつ打ちたる芒種かな   小島ただ子
葭切を遠にクラフトビールかな     板本敦子
モンゴルの旅に拾ひし石白夜      石井タミ子
羽蟻の夜エンドロールの長長し     土橋モネ
風鈴の吊りどころありワンルーム    板橋麻衣
梔子の花や夜風は東から        小宮由美子
躾打つ梅雨明け宣言聞きながら     土谷和博
笹篊に魚のはねる芒種かな       長村光英
少年に捕虫網てふ旗印         松山暁美
花合歓の木陰に止める乳母車      長谷川稔
針山に針刺し戻す羽蟻の夜       渡辺里妹
                   (泉集)