藤本美和子抽出
八月
青嵐石柱石碑影持たず 井上弘美
リラことに白きが薫る師恩かな 陽美保子
(八月集)
雨女くちなはいちご熟れてをり 植竹春子
笹粽越後の風にほどきけり 伊藤麻美
(石泉集)
潮の香の残る帆布や桐の花 川岸雅子
男らの田植仕舞の話など 渡辺里妹
野良猫に見すゑられをる薄暑かな 石井タミ子
リラ冷えの血管を刺す注射針 西川千晶
すだ椎の幹に瘤ある五月闇 長村光英
粽結ふ紐の長さの定まりて 小島ただ子
薄暑光遠くに風の海軍旗 佐藤順子
ケバブ―を掴みてサマードレスかな 鈴木真理
更衣椀に稚貝のみなひらく 富田晃司
粽解く知恵の輪を解くやうに解く 永岡美砂子
盆石の砂の紋様麦の秋 松山暁美
翻るたびに一声夏燕 三浦れい子
円卓の木目明るし豆ごはん 杉木美加
鳰の巣に金波銀波の及びけり 土橋モネ
喚声を蛍袋の中に聞く 三上かね子
大川を草河豚のぼる薄暑かな 丸山分水
(泉集)