藤本美和子抽出

五月

青き踏む遠き日のこと今のこと   秋山てつ子
さるぼぼが一番上や吊し雛     長沼利恵子
星空へ火の粉が飛んで朳舞     陽美保子
                 (五月集)
由比ヶ浜全景春の波高し      神戸サト
影さして鯉の口あく日永かな    木本隆行
黒船の見張り所や地虫出づ     取違憲明
                 (石泉集)
夜遊びに出て春塵の匂ひけり    板橋麻衣
暮れ方の砂町銀座寒雀       杉木美加
願掛けのたしかな声や木の根明く  星井千恵子
浄土とは料峭の鳥なくところ    松山暁美
白日の空に月ある野焼かな     小島ただ子
左利きなる祖母の手の目刺かな   渡辺里妹
雛の間の見える縁側借りにけり   石井タミ子
柏手を強くひびかせ受験生     松田ナツ
真二つに割るチョコレート春来る  鈴木真理
永き日の金唐紙の肌触り      永岡美砂子
琥珀糖カリリカリリと日脚伸ぶ   小宮由美子
くま笹の乾きし音や鳥交む     髙橋とし子
紅梅やひとつ仕事を成しとげて   橘いずみ
飛騨に生れ飛騨をはなれず涅槃雪  小林真木
                 (泉集)