一月
末枯に一番星を見て帰る 秋山てつ子
潮うねり波立ちあがる神の旅 陽美保子
（一月集）
鶺鴒の足のそろひし百度石 植竹春子
包丁を研ぐ不知火をまなうらに 小橋信子
玄関に妻の靴置く小春かな 小山草史
栗剝いて老い先のこと家のこと 神戸サト
（石泉集）
板張りの床のよく鳴る茸飯 取違憲明
鶺鴒の来る卯の刻の川明かり 志田礼子
秋興の一炷香に座してをり 板本敦子
狐火や壱両分の足字銭 川岸雅子
秋冷の鉄砲釜をひと覗き 平手ふじえ
秋日濃し廻船問屋荷揚口 中島利江
早朝の怪しき色の茸かな 永岡美砂子
田の神に一献ささぐ昼の月 小島ただ子
夕暮の風が棲みつく根釣岩 三上かね子
朝寒のきれいなこゑの雀かな 木本隆行
立冬や金平糖に小さき芯 板橋麻衣
草の実を上がり框に払ひけり 辻 惠子
秋の薔薇ライオン橋を渡るとき 大西紀久子
椎の実の降つてくるなり孤独なり 梅津由子
（泉集）
二月
波郷忌の卓に置きたる冬薔薇 秋山てつ子
モネの絵のむらさきが好き毛糸編む 長沼利恵子
八雲立つ出雲も奥の妹背鳥 陽美保子
（二月集）
笹鳴のだんだん近し雨近し 小橋信子
褞袍着て温泉卵啜りけり 伊藤麻美
日ざしある所を歩け石蕗の花 山梨菊恵
（石泉集）
鳰向きを変へても水眩し 星井千恵子
岩頭に禽入れかはる冬の濤 平手ふじえ
風強き一日なりけりししやも喰ふ 川岸雅子
この家も息災であり干し大根 小宮由美子
ジャズ聞きてブロッコリーの茹で加減 杉木美加
ペンギンの喉ふくらみ暮早し 志田礼子
十二月八日が近き歩幅かな 取違憲明
これよりの雪の日数や花買うて 板本敦子
ワイン飲む十一月の木曜に 富田晃司
縫始め弟子の鋏の鈴の音 土谷和博
天を向く花のあはれや帰り花 木本隆行
蒟蒻を干して並べて小商ひ 望月志津子
着ぶくれて人恋ふ日々の始まりし 片山久子
昭和遠しよマフラーの真知子巻き 大西紀久子
三月
白味噌を極上とせりお正月 井上弘美
セーターに首を通せば山見えて 菅家瑞正
ウオーキングマシンに乗つて松の内 長沼利恵子
繊月は雲よせつけず明きの方 陽美保子
（三月集）
あらたまの年のはじめの白湯のいろ 小橋信子
色紙の裁たれて匂ふ冬至かな 伊藤麻美
病室に冬至の柚子を置きにけり 小山草史
福相の人と逢ひたる避寒宿 神戸サト
（石泉集）
臼起し寸胴鍋に水張つて 取違憲明
走れ走れ正月の凧輝かせ 佐藤順子
虎落笛はめ殺し窓ばかりなり 小宮由美子
一月一日鷗のこゑを聞きに来し 板本敦子
あの椅子とこのセーターと母のこと 川岸雅子
風音か獣の音か餅焦がす 星井千恵子
乃木坂や破魔矢の音を先立てて 水上緑子
祖谷渓の夜の風あらき葛湯かな 石井タミ子
獅子舞の歯の当りたる我が頭 遠藤久江
抽出しに用なき鍵や年の暮 望月志津子
九絵食べにゆく初旅に加はりぬ 大西紀久子
万両忌昼餉のそばをすすりけり 長村光英
（泉集）
四月
水桶を二つ置いたる冬菜畑 菅家瑞正
鷗飛び交ふ春節の波頭 陽美保子
（四月集）
笹鳴の坐りなほして近くなる 伊藤麻美
朝採りの明大農場産冬菜 神戸サト
明王の剣と羂索寒明くる 木本隆行
松過ぎの潮を待ちたる帆前船 取違憲明
日曜の讃美歌の呼ぶ雪華かな 平手ふじえ
（石泉集）
ヒマラヤの石ひとかけら雪催 石井タミ子
ひとくちの天然水の四温かな 土橋モネ
焙烙の豆ほの温き福は内 渡辺里妹
鳩が二羽日向を歩く風邪心地 星井千恵子
春着の子松の葉相撲してゐたり 望月志津子
星ふやしつつ年の豆撒きにけり 水上緑子
游禽の尾羽の叩く冬の水 松山暁美
爪先の位置定まれる寒稽古 鈴木葉子
柊挿す軒下の梁太きこと 杉木美加
高らかに新横綱の福は内 長田 保
嘴を時折鳴らす浮寝鳥 小島ただ子
貌鳥よ弘法様の菅笠に 志田礼子
雪吊を解きたる縄の堆し 大西紀久子
（泉集）