三月
寒の水 井上弘美
短日の臼を零るる碾茶かな
一湾を闇に忘るる薬喰
白味噌を極上とせりお正月
羽子板の頭ましろき鏡獅子
ひとくちの薩摩切子の寒の水
冬青草 菅家瑞正
枯萩に近寄りて身の火照りけり
セーターに首を通せば山見えて
日輪や冬青草に艶の出て
山陰の伸びてをりたる冬田かな
リヤカーを引く園丁や枯るる中
歳晩 秋山てつ子
墓守を訪ふポケットに龍の玉
歳晩の由比ヶ浜には寄らぬまま
乗り継ぎの夕べのバスに葱匂ふ
葱一本買うて帰りし子供かな
聞かざりし雀の声や寒に入る
ウォーキングマシン 長沼利恵子
石ころに影ひとつづつ冬の浜
遠富士や千枚漬けを厚切りに
干大根琥珀の皺のそろひけり
獅子舞の大きな口があいて晴
ウォーキングマシンに乗つて松の内
明きの方 陽美保子
夕雲の裏に日当る臘八会
みほとりに子の声のある冬至かな
一陽来復風呂敷の平包み
降誕祭天火の扉開きけり
繊月は雲よせつけず明きの方