七月

花桐  井上弘美
老鶯や父にゆかりの人訪はむ
朱塗門潜るに菖蒲の鬘など
牛蛙遣はす吉野太夫の墓
小振りなる具足一式緑さす
花桐や御手いとけなき十一面

行く春  菅家瑞正
行く春や畑の中の忘れ籠
学校の百葉箱や百千鳥
風立ちてぺんぺん草のリズムかな
踏青や後ろ歩みも時として
若草や睦み合ふかに道祖神

栴檀の花  秋山てつ子
茎立やいまにも雨の来さうなる
栴檀の花に夕べの人の声
鳥の眼と吾が眼合ひたる虚子忌かな
緋目高の泛き上りをり寺框
門跡に零るる音の柿の花

朴の花  長沼利恵子
目印は棒杭二本潮干狩
花びらの顔にぶつかる古戦場
一駅を列車に乗つて昭和の日
体重は笑へば増ゆる葱坊主
オカリナの息の長さや朴の花

雨の粒  陽美保子
白鳥の引きし空より雨の粒
鶯の鳴いてくれたる島田鍬
朝風に辛夷のひらく舟おろし
陽炎を抜けきてアイヌ神謡集
手の平は甲よりさみし紙風船

考へる人  石井那由太
真つ直ぐに天を仰げるチューリップ
生き生きと風に応ふる鯉幟
ほととぎす夜警の声を流しゆく
永き日やチャイムは学びの刻と告ぐ
考へる人眠れる人に万愚節