十二月
鹿笛 井上弘美
蝦夷地図に山河はあをし雁来月
コタン・コロ・アイヌの木肌水の秋
鹿笛は小舟のかたち秋気澄む
深秋の吾が影よぎる叢隠居
迢空宛書簡文箱に露の秋
秋耕 菅家瑞正
風あらばこその葎や秋めきて
色変へぬ松や一寺の花頭窓
秋耕やいかにも軽き鍬使ひ
手の窪に座り宜しき椿の実
もみいづる並木は同じ高さにて
秋茄子 秋山てつ子
茫茫と水平線や秋茄子
天麩羅に穂紫蘇摘み来し夕あかり
秋茄子野川の音に太りたる
狗尾草に分け入る一歩二歩三歩
路地の家の石垣仰ぐ柾の実
をみなへし 長沼利恵子
紫蘇の穂に眼が痒くなりにけり
苦瓜の宙に連なり日照雨
葛の花の匂ひの中に雨宿り
軒近く咲きをみなへしわれもかう
息吐けば胸に響けり星月夜
六曜 陽美保子
日めくりに六曜ありぬ曼珠沙華
墓洗ふ鳥の歩める音のなか
梨届く小粒なれども甘しとて
虫の夜の平らにひらく和綴ぢ本
鉛筆は立てて休ませつづれさせ