七月

花散る  井上弘美
喪心のきざす藤房ゆれやまず
花散るや胎内仏は闇の色
そこばくの水にゆかりや花の寺
滾りたる白湯を伊万里に花疲れ
耕して一日まぢかき神の峰

花辛夷  菅家瑞正
口笛をもて小綬鶏に応へけり
左官屋の車来てをる暮春かな
花辛夷僅かな風があればいい
山吹の食み出してゐる籬かな
行春や畑に揃ふ畝の数

母子草  秋山てつ子
春北風や夕日射しゐる勝手口
手を置きし膝のぬくみや母子草
遠き木の揺れてをりけり春夕焼
春愁や三鬼の浜に長居して
古民家の高き敷居や春埃

ロックンロール  長沼利恵子
舷を掴みて覗く桜鯛
はなびらの吹き込んで来る東司かな
花吹雪エレキギターを揺り上げて
拳振りロックの人となる立夏
金鳳花ロックンロールをひと日浴び

山廬  陽美保子
春筍に雨の明るき山廬かな
人偲ぶわけても木の芽雨の中
永き日の当て木もらへる柱かな
家長ゐて霧島躑躅緋色濃し
一串の鮎ほろ苦し旅の果