菊人形  井上弘美
蒼鷹やメタセコイアの森の空
菊人形舷に座す水明り
けものみちより現れし茸番
種々をふかく踏みゆく秋思かな
立冬や締め直したる太鼓の緒

穭田  菅家瑞正
キャンパスの柞紅葉の並木かな
穭田の二枚続きや谷戸の風
ぽんと跳びすいと跨ぎて秋の水
秋蝶の飛んで折れ線グラフかな
氏神の椎の大樹や在祭

嚏  秋山てつ子
夕日差す大黒柱文化の日
手鞠麸は京の土産や文化の日
粥膳の運ばれ来たる秋の坊
嚏して顔が小さくなりにけり
ゆつくりと返る谺や日短

夜長し  長沼利恵子
水草の浮きゐるままに水澄めり
花の種採るやハンカチ広げては
吾亦紅ばかりを挿して十三夜
虫の夜や開く頁の須磨明石
変顔もひとり笑ひも夜長し

落葉  陽美保子
一冊の天地の間に秋惜しむ
指ふれて草の実とばす世迷言
秋水のしづけさにあり人の顔
悪霊の憑きたるかたち菱の実は
風に追ひこされ落葉に追ひこされ