藤本美和子主宰の俳句
六月  夢違へ   

蛇出でて凸面鏡のうちの景
永き日や翁の隻句などに触れ
接ぎ松の節や伏流水響く
降りみ降らずみ山中の仏生会
乳呑児の足のうら見ゆ花筵
照鷽といひ雨鷽といひ万花
海潮のさしくる雀隠れかな
湧水のし吹く八十八夜寒
春夫忌の空をあふぎて吹き戻し
        吹き戻し…玩具
河骨の花鮮しき夢違へ




美和子句 自解 

六月

ほうたるにほうたるが寄る草の裏

 初出は二〇一一年「俳句」九月号。「鞍馬」というタイトルをつけ十六句発表した。このほかにも<蛍火の擦れ違ふときはじきあふ>など、蛍の句を五句ほど詠んでいる。
 掲出句、実は句集にも残していない。地味な句、という理由で自選から外したのだった。だが下五の「草の裏」を仁喜先生が評価して下さったことだけは覚えている。
 総合誌に発表する句はすべて仁喜先生に目を通して頂いていた幸福な時代。当時の句稿には入院中の先生の朱筆が今も鮮やかに残る。つまらない句に対しては何のコメントもない。だが偶に平凡だと思っていた句が評価されることもある。掲出句もそんな一句である。見たままを叙したに過ぎない、と思っていたからだ。
 掲出句は下五「草の裏」に対して「最後まで目を離さなかった」と一言書いて下さった。
 見ること、凝視すること、写生に繋がる一語を思うとき思い出す一句である。

 



 

 



 

藤本美和子プロフィール
1950年、和歌山県生まれ。
綾部仁喜に師事。2014年「泉」を継承し主宰。
公益社団法人俳人協会理事、日本文藝家協会会員。句集に『跣足』(第23回俳人協会新人賞)、『天空』、『藤本美和子句集』、『冬泉』(第9回星野立子賞)、著作に『綾部仁喜の百句』、共著に『俳句ハンドブック』等。