藤本美和子主宰の俳句
 十一月 茗荷の花   

わが額の高さに飛んで去ぬ燕
松風に茗荷は花を立てにけり
龍淵に潜む小鳥の羽根ひろふ
帚木の影のととのふ秋彼岸
柚子坊のころがり太る雲の影
秋の蚊を打つに両手のそろはざる
錠剤のいろ待宵のあかるさに
長き夜の佐久の郡の果実かな
みづうみの夜さりつ方の芒原
台風の目の中に吊る草箒







美和子句 自解 

十月

穭田のところどころの焦げゐたる

 初出は「泉」平成八年一月号。発表時は、
  穭田のところどころが焦げにけり
である。今となっては原句のままでよかったか、と思う。なにしろ第一句集『跣足』を編む際、あまりにも切字使用の句が多いことに愕然とした。「諸君は無理にでも、『や』『かな』『けり』を使へ。」という波郷の教えを信奉し、切字をおそれることなく使った結果であったから当然といえば当然であった。が、それにしても多すぎる、ということから、なんとか切字使用の句を減らす策としてとった措置だったか、と思う。推敲の段階では仁喜先生にも相談しているはずだが、経緯については忘れた。
だが原句の方が当時の私が見て、感じとった思いが生きる。「ところどころの焦げゐたる」では、「焦げゐたる」箇所ばかりがクローズアップされ、穭田そのものの広がりが消えてしまうような気がする。この句の推敲過程などをみると推敲することの難しさを思う。いや、もっと切字を信頼すべきであったし、最初の感動を忘れてはいけなかった。まさに「見るにあり、聞くにあり、作者感ずるや句となる所は即ち俳諧の誠なり」である。
        平成七年(一九九五)作。『跣足』所収。
     


 






藤本美和子プロフィール
1950年、和歌山県生まれ。
綾部仁喜に師事。2014年「泉」を継承し主宰。
公益社団法人俳人協会理事、日本文藝家協会会員。句集に『跣足』(第23回俳人協会新人賞)、『天空』、『藤本美和子句集』、『冬泉』(第9回星野立子賞)、著作に『綾部仁喜の百句』、共著に『俳句ハンドブック』等。