藤本美和子主宰の俳句
四月 節分草   

仄々と節分草の四辺かな
駒返る草のなかから鳩が出て
春寒料峭鴛鴦の思ひ羽
木の芽張る水の上は鳥睦みゐて
老人の杖の触れたる蝌蚪の水
昼中のうすき塵おく蝌蚪の紐
小綬鶏が鳴く背戸口が開いてゐる
水温むころとなりたる笛太鼓
夕景としてまんさくの花盛り
ひと夜さの雨のありたる草を摘む



美和子句 自解 

四月

  イースターホリデーにして橋の上 

 2019年4月21日、日曜日、イタリアでの作。この年、4月15日から24日までイタリアに行った。「ウエップ俳句通信」の大崎紀夫編集長率いる超結社イタリア吟行に参加したのである。
 偶々イースターホリデーと重なったこともあり、観光客が多いのには少々閉口した。が、それにも増して旅の開放感の方が大きかった、といえる。
 なかでも復活祭の行事の一つでもあり、その年の豊凶を占うというドゥオーモでの「スコッピオ・デル・カッロ」等々の場面に遭遇できたのは、貴重な体験だった。
 掲出句は「ウエップ俳句通信」(VOL・110)に発表したもので、橋はフィレンツェのアルノ川に架かるポンテ・ヴェッキオ。ほとんど無内容にも等しい一句だが、イタリア吟行を前提に読むとヴェッキオ橋を想像してもらえるのではないか。いつも思うのだが、現場に身をおくことで得られた一句というのは作者自身になにより安心感がある。この一句には「イースターホリデー」という時節の、キリストの復活を願う異国特有の熱気がすっぽり封じ込められたような気がして自分でも好きな句である。
 この他にも復活祭に関わるあらゆる季語に挑戦した。
  パーゴラの下の木椅子や四旬節
  ひと本の聖土曜日の月桂樹
等々、この吟行で得た14句を句集に収録した。
                『冬泉』所収



 

 



 

藤本美和子プロフィール
1950年、和歌山県生まれ。
綾部仁喜に師事。2014年「泉」を継承し主宰。
公益社団法人俳人協会理事、日本文藝家協会会員。句集に『跣足』(第23回俳人協会新人賞)、『天空』、『藤本美和子句集』、『冬泉』(第9回星野立子賞)、著作に『綾部仁喜の百句』、共著に『俳句ハンドブック』等。