一月 湖西線
ひと時雨ありたる秘仏をろがまむ
淡海の北の辺りや帰り花
老松の風聞きをらむ浮寝鳥
鳥を見て湖を見て暮早し
笹鳴の方へ方へと疎水かな
立像と坐像に見え日短
大年の西国十四番札所
笹子鳴く柿本多映の句碑の影
掻きあつめをるはおほかた椋落葉
鷗らは年の別れの翼立て
二月 淑気
狐の嫁入り大綿がついてくる
極月の僧侶が話す鯉のこと
歳晩の切株があり坐りけり
依代の松に鴉や寒波急
獅子舞の口をひらけば松に風
獅子舞に仕へてゐたる囃子方
ひよつとこの顔天に向く淑気かな
初晴の孟宗竹の林かな
焚上げの煤の降りくる初山河
人の日の若草色の出雲菓子
三月 春を待つ
泣初の子に信号の変はりけり
踏切にかかる七福神詣
命日の樟の葉音を聞くも寒
一月十日命日に『綾部仁喜全句集』刊
しみづあたたかをふくむ一全句集
一音の十七音の四温かな
紅き実のいろうすれゆく風邪心地
松山城
天守より灘をのぞめる節替り
梅早し湯煙の濃きひとところ
子規がをり山頭火をり日脚伸ぶ
先生を知るともがらと春を待つ
四月 えんぶり
火を焚いて土を鎮める春祭
雪吊の松のかたへの篝籠
篝火の火の粉に仕ふ朳舞
えんぶりや贔屓の太夫ひとりゐる
えんぶりの子どもの爪子脛巾かな
少年の四肢かくも反る雪解光
八仙といふ酒の銘春浅し
手平鉦打つ白鳥の帰るころ
春寒料峭淋代の虚貝
淋代の浜より戻る朝寝かな